腕を切る事。
血を見て落ち着く事。
普通に考えたら狂っているとしか思えないような行動。
やめたくても、やめたくても、どんなにやめたくてもやめられない。
そうしなければ、絶対に生きてなんていけない。
腕を切りたいから切っている訳じゃない。
切らなければならないから切っているんだと思っていました。
楽しくなんて無い。
ただ現実から逃げる為だけに。
そんな事を続けて。
時間は誰にでも平等に流れていきました。
僕の中の時間は13歳で止まったままでしたが。
もう少し蒸し暑くなり始めていました。
半そでの季節でした。
腕にはいつもガーゼを貼り、傷が見えないようにしていました。
不自然な位置に不自然な形で。
僕の友達はみんな気付いていました。
でも、他人には見えない。
心の最も深い所を見られなくて済む。
そう思えばガーゼ一枚なんて安いものでした。
ある日、仲間との飲み会の後、僕は仲の良い先輩と二人、駅前でタバコを吸いながら話していました。
時間は夜の二時。
他愛も無い話をしていたと思います。
少ない人影。
ゆっくり流れる時間。
駅だけが暗い中で浮き出たように光っていました。
このまま消えたい。
そんな事を考えていると、先輩が僕に問いかけて来ました。
「腕・・・またやったの?」
ゆっくり駅を見ながら答えました。
「やっぱりバレてます?」
妙に明るく、笑顔で答えたのを覚えています。
その先輩は僕の生い立ちと今の状態を全て知る、数少ない大切な人でした。
あまり心配を掛けたく無かった。
そして続けて言いました。
「これ癖みたいなもんですから!頭おかしいんですよ、俺!」
笑い飛ばしました。
完全に強がりでした。
大丈夫じゃないけど、そんな事言えない。
負けず嫌いの性格も手伝って、弱音を人に吐く事はあまりしませんでした。
そんな事を全て見通すかのように先輩は悲しそうな顔をしました。
少しの沈黙の後で先輩は口を開きました。
「俺さ、のりの腕見た時に一発で解かったよ。
俺じゃ頼りになんないかもしんないけどさ、何でも相談してよ。
自分の事嫌いなのも知ってるけど、俺はのりが好きだよ。
死んじゃったら本当に悲しいよ。
のりが俺を大事に思ってるのと同じぐらい、俺はのりが大事だから。
一人だなんて、絶対思っちゃ駄目だよ。
腕切るな、なんて言わないし、それが救いになるんなら止める事は出来ないけどさ。
いつかこの傷も笑えるようになるまで、なった後もずっと一緒だから。」
嬉しかった。
ただ単純に嬉しかった。
大切な人から、そんな事を言ってもらえる事が嬉しかった。
腕を切る事さえも受け入れてくれる人が居る事が嬉しかった。
この人の声は僕の砕けた心を少しずつ一つにしてくれるような気がしていました。
自分は嫌いだった。
だけど、こういってもらえる事で自分への殺意は和らぎました。
去年の六月の深夜、地元の駅で僕は先輩にただ感謝する事しか出来ませんでした。